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Media Ambition Tokyo 2020
『KAXEL "春夏秋冬"』出展レポート

2020.03.31
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イメージソースが例年参加しているテクノロジーアートの祭典「Media Ambition Tokyo [MAT]」。2020年2月28日~3月8日に開催されたMATには、デジタルと植物の調和で季節の移ろいを表現した『KAXEL “春夏秋冬”』を出展しました。過去の展示とは異なるアプローチで演出した、光を遮ることでみせるメディア「KAXEL(カクセル)」の可能性を拡張したこの最新作について、制作背景とともにレポートします。

KAXEL × 植物で日本の四季を表現

KAXELは、光を遮り “隠すこと” で見せる新しいメディア。「遮光(=黒色)」と「透過(=透明)」を制御して、背後の対象物や景観を見せたり隠したりする空間演出装置です。2019年9月に「IMG SRC PROTOTYPES VOL.05」(以下「PROTOTYPES」)でお披露目され、さらに翌月開催されたデザインとアートの祭典「DESIGNART TOKYO 2019」(以下「DESIGNART」)では、WeWork アイスバーグ(東京渋谷区)を会場に、通りに面したガラス張りの壁面に展示。装置の前面に立つと、人感センサーが鑑賞者のシルエットに反応し影のように黒く遮光されたり、プログラミングによって制御された幾何学的な模様やアニメーション、文字などが浮かび上がり、街と調和するスクリーンとして新たな体験をもたらしました。

そして今回、今年で8回目を迎えたMATにおいて、バージョンアップさせたKAXELを用いて空間演出をした作品である『KAXEL “春夏秋冬”』を発表しました。KAXEL と、フラワーデザイナーの三嶋善喬氏が率いる一花屋(IKKAYA)のアレンジメントで構成された作品で、8台のKAXEL を等間隔で横一列に配置。背後を春・夏・秋・冬を連想させる植物で飾り、左から右へ時間が流れていくように季節の移ろいを表現しています。“春夏秋冬” というテーマに行き着いた経緯を、アートディレクターの小山潤は次のように説明します。

「隠したり、隙間から見せたりなど、対象物や景観が見えたり見えなかったりするKAXELには、開発当初から、和の雰囲気を醸し出すようなイメージがコンセプトとしてあります。MATはより自由に表現できる場なので、屏風や掛け軸のような日本古来の表現を意識しつつ、KAXELという一種のテクノロジーを通して “日本の和” がどう見えるのか、どう見せれるのかを考えました。また掛け軸や屏風には植物がモチーフとしてよく使われるので、日本の特徴ともいえる “春夏秋冬” をKAXELと植物とで表現しました」(小山)

過去の展示では、2台または4台のデバイスを隙間なく置いて大きなスクリーンに見立てることで、ダイナミックに空間を演出してきましたが、『KAXEL “春夏秋冬”』は1台ずつ独立させて横一列に配置しているので、その佇まいから受ける印象も、これまでとかなり異なるものとなりました。デバイスとデバイスの間から、あるいは黒と透明に切り替わるマス目の隙間から見える景色は、時空を越えて日本庭園を眺めているような、そんな不思議な感覚を味わうことができます。

アニメーションは前回同様に、テキストやアイコンなどを表示しつつ、今回のKAXELではLCDの見え方やシステムをアップデート。「遮光」と「透過」を切り替えるタイムラグをなくし、よりなめらかな動きを実現しています。こうしたテクニカルな部分を担当しているのが、KAXEL開発にあたったデザインエンジニアの高野幹。

「これまでのアニメーションはドット絵のようなタイプの表現だったのですが、今回のKAXELではもう少し有機的な印象を受けると思います。アップデートしたKAXELで、より没入感の高い世界を感じていただけるようになりました」(高野)

KAXELと植物を掛け合わせることで、「無機/有機」「デジタル/アナログ」というコントラストが際立つと同時に、これらをうまく溶け込ませるような表現にも注力しました。過去2回の展示でのアニメーションは、KAXELのファンクションを伝える役割に徹していましたが、今作では、アニメーションの可能性を示す目的で、アンビエントな表現も検証しています。具体的には、それぞれの季節でイメージしたアニメーションを展開。春は暖かさやそよ風、夏は降り注ぐような強い日差し、秋は月の動きとその光、そして冬はちらちらと静かに降る雪。

「メディアアートは、ときに作品の背景を読み込む必要があり、難解だったりもするのですが、アニメーションも含めあえてわかりやすさを意識しました。春夏秋冬のテーマもまさにそうですが、対象物とKAXELにギャップがあるほどKAXEL自体の表現も面白くなっていくのではないかと思っています」(小山)

無意識に現象として見てしまう面白さ

KAXELお披露目となった「PROTOTYPES」では都心の街並みを望むオフィスビル群の窓を背にし、2回目の「DESIGNART」では人通りの多い道に面したガラス張りのオフィスの一角で、そして今回は渋谷キューズ(東京渋谷区)屋内にある展示スペースで植物との掛け合わせた表現をしました。見せ方を変えながら、その都度異なるシチュエーションで3回にわたって展示をしたことで、KAXELの特性がより顕在化されてきました。高野は、KAXELの一番のポイントは “空間に強く依存する点” だといいます。

「 “ずっと見ていられる” という感想をいただくことが多いのですが、その理由は “空間に強く依存すること” と紐付いているといえます。というのも、KAXELのアニメーション自体は、同じ動きを繰り返しているにすぎません。にもかかわらず、飽きずに見ていられるのは展示環境が常に変化しているからだと考えています。今回でいうと背後の光や、周りの鑑賞者の影の動きなどが目に入ってきます。ほかにも時間帯による太陽の傾きや影の落ち方、ビルの街明かりなどによってもその環境の光は大きく変わるので、それらも込みで無意識に現象として見てしまう。KAXEL のみで完結せず、周囲の光を利用することで環境の一部に見えるように設計したのが重要な点といえます」

極端にいえば、空間の数だけKAXELの演出方法があり得るわけで、どんなふうに展開されるのか未知数の可能性を秘めています。一例として、ふたりからはこんな提案がありました。

「展示というより、建築の一部のような見せ方も面白いですよね。たとえば会議室のブラインドのように使ったり、ガラス張りの面を埋めたり、もともとのコンセプトである障子のような使い方をしてもいい。天井に設置すれば、光が落ちてくる表現もできるでしょう」(小山)

「KAXELの背後に同じ大きさのピクセルアートを置いて、錯視を起こさせるというか、どこが動いているピクセルなのか 錯覚させるような表現も、個人的には興味があります」(高野)

MATでの展示ということもあり、『KAXEL “春夏秋冬”』はアート寄りの表現になっていますが、広告的な表現とアート的な表現の両方が可能なところも特長といえます。広告的な使い方をする際には、背後に商品などを置くのが、最もわかりやすいかたちです。そこにインタラクションを加えて、人が手をかざしたり覗き込んだりすると、ピクセルが黒から透明になるような誘導も面白く、商品の魅力を引き出すものにできると考えています。

成功体験を次のステップへ

自社内でR&D活動を行うイメージソースは、制作チームのメンバーが密にコミュニケーションを取りながら、フレキシブルにプロジェクトを進められる点が強みのひとつといえます。

「R&Dでは、チームでありながらスタンドアローン形式といいますか、個々が責任をもって独自に進められるのが強みです。そのためスピード感をもって進めることが可能なのですが、一般的には手数をかけるほどクオリティはよくなるので、その時間の使い方とのバランスは個人の裁量によるところが大きいといえます。ですから、KAXELのように発表されたR&Dの成果を、ぜひ次の段階として、クライアントワークなどに活かせればと思っています」(高野)

R&Dのプロジェクトマネージメントとして、KAXEL制作の進行管理を担った西能まりあは、プロジェクトを俯瞰する立場としてこう説明します。

「裁量権が個々に委ねられるのがやりがいであり、その一方で厳しいところであるともいえます。クライアントワークではスケジュールや予算といった条件があらかじめ決められていることが多いのですが、ある程度自分たちで裁量を持つことの出来るR&Dでは、そうした条件を自身で設定しなくてはならない局面が次々とやってきます。こだわるのか、捨てるのか。線引きを瞬時に嗅ぎ分ける潔さやセンスが求められ、こうしたスリリングな経験が日々チームの身になっていると実感しています。イメージソースのようなR&D活動は、必ず社会の役に立つことができると信じています。こうやって種をまく活動がどんどん社会実装されていけば嬉しいです」(西能)

また『KAXEL “春夏秋冬”』はR&D内だけでなく、フラワーアレンジメントを手がけた一花屋のサポートがなければ、実現できないものでした。

「一花屋さんとは何度も打ち合わせを重ね、とても積極的に関わってくれて、自分たちだけでは思いつかないようなアイデアも出してくださいました。R&D内はもちろん、外部のパートナーともいい関係を築けて、関わった人全員が前のめりに制作できた。集中できる環境があったことも大きいですし、今回の展示は貴重な成功体験になりました」(小山)

多彩なアーティストや企業が参加するMATに、進化版と呼ぶにふさわしい『KAXEL “春夏秋冬”』を出展したことは、制作過程も含めて大きな一歩になったと実感しています。
「IMG SRC PROTOTYPES」、「DESIGNART TOKYO」、そして今回の「Media Ambition Tokyo 2020」での展示。テクノロジーを使った表現やアイデア、デバイスの可能性などを拡張するべく、R&D活動を行ってきたイメージソースならではの、可能性の広がりを感じています。次なる展開へ向けて、構想は膨らみます。

体験型広告やエンターテインメントの演出、店舗用インターフェースなど、具体的な活用方法についてお考えの際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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