画像: Lording

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大規模プロジェクションマッピングと5G
への挑戦―
「YOYOGI CANDLE 2020」が切り開いた2020年への可能性

2018.04.03
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※こちらの記事は株式会社D2Cが運営する自社マガジン「D2Cスマイル」の転載記事です。

2017年10月28日、11月29日の2日間にわたり、大規模プロジェクションマッピングイベント「YOYOGI CANDLE 2020」が開催されました。

本イベントは、渋谷区代々木にあるNTTドコモ 代々木ビルをキャンドルに見立てたプロジェクションマッピングイベントで、高さ240mの高層ビルを舞台としたダイナミックな映像と、それにシンクロした音楽がスマホで視聴できるという新体感映像エンターテインメント。イベントを目にした通行者からの投稿や、空手選手の演舞や卓球、バドミントン選手のスイングがリアルタイムで大画面に映し出され、街ゆく人との一体感や今までにない規模の映像表現、そしてビルのLEDライトとも連動した演出が話題を呼びました。

この大規模イベントはどのように発案され、どのように成功へと至ったのか。イベントのクライアントであり運営を手掛けた株式会社NTTドコモの小田哲氏、イベントの全体プロデュースを手掛けた株式会社カケザンの長尾啓樹氏、企画から制作まで総合的に手掛けた株式会社イメージソースの小池博史氏に伺いました。

コンセプトは2020年につながる「街の気運の高まり」

―2017年10月28日、及び11月29日の2日間で行われた「YOYOGI CANDLE 2020」。どのように企画が持ち上がってきたのか、施策の背景からお聞かせください。

小田:本イベントは、「YOYOGI CANDLE 2020」というタイトルからもわかるように、東京2020オリンピック・パラリンピックの1000 日前を記念するイベントとして企画されました。2020年に向けて国立競技場の建て替えが決定し、新デザインを選ぶ国際的なコンペが実施されたのは皆さんも知るところだと思いますが、一般に公表されたデザインを見ると、その背景に弊社の代々木ビル、通称「ドコモタワー」が描かれていたんです。この気づきによって「ここでドコモタワーを光らせたい」というアイデアがキーとなり、2020年に向けたビルのプロジェクションマッピングが企画の核となりました。

株式会社NTTドコモ R&Dイノベーション本部サービスイノベーション部 担当課長 小田哲氏

小池:プロジェクションマッピングは一つの決定事項として、どのようなイベントに作り上げていくべきか、コンセプト設計が重要でした。都会のド真ん中とも言うべきあの場所で、シンボリックなビルに投影ができれば、それだけでインパクトがありますし、熱狂も得られます。ただ、一時的な盛り上がりを演出するだけでは「2020年に向けて」という大前提が満たされません。

そこで一つの大きな軸として、「街の気運を高めること」をコンセプトに設定しました。来たる2020年には新たな時代のシンボルとなる新国立競技場。その新国立競技場からも程近い代々木エリアに住む人たち、代々木エリアを往来する人たちが誇らしく思えるようなプロジェクトにしようと。プロジェクトのネーミングに「YOYOGI CANDLE 2020」と地名を入れ込んだのも、2020年に向けて「街と一体化したイベント」というコンセプトを明確に打ち出すためです。

株式会社イメージソース 代表取締役社長 クリエイティブディレクター 小池博史氏

小田:同時に重要だったのが、通信サービスを生かすという点ですね。「ドコモには何ができるのか?」という原点に戻ったとき、それはやはり通信。メッセージを高層ビルに大迫力で投影するという演出によって、お客さまが日常的に利用されている通信サービスを拡張させた体験になるのではないかと。

小池:スマートフォンって今や自分の一部にもなっているデバイスなので、自分とつながっている感覚が得られやすいんですよね。スマートフォンを介して投稿者として参加することでイベントへの一体感が得られますし、自分のスマートフォンから送信したメッセージが、大迫力の映像になって目の前の高層ビルに投稿される体験というのは、シンプルに心を打つんじゃないかと考えました。制作している自分たちがやってみても「おおっ」と声があがりましたし、実際に何度も投稿する方も多かったようです。

2020年に向けたもう一つの取り組み「5G」

―今回の施策では映像の投影に5G回線を活用されたと伺いました。これもまさに「通信サービスならでは」の試みです。

小田:2020年というのは通信サービスとしても非常にシンボリックでして、LTE-Advancedの次の世代となる第5世代移動通信システム「5G」も2020年の商用サービス開始に向けて取り組みが加速しています。

「5G」と聞くと、「3G」「4G」といった移動通信システムに対応したモバイル端末の発展と、通信速度の向上がまず思い浮かぶと思いますが、「5G」の発展は通信速度の向上だけでなく、「大容量化」「多数端末接続」「低遅延化・高信頼性」が謳われています。これらによって、様々な機器が同時接続するスマートホームや、様々なセンサーや高精細映像情報をリアルタイムに分析して事故を未然に防ぐコネクテッドカーや警備システムなど、大容量かつ複雑化するIoTやAIを遅延なく処理することができると期待されています。

ドコモでも2020年に向けたサービスインを目指して、多くの企業と連携しながら様々な実証実験を行っています。ロボットの遠隔操作や遠隔診療、4K/8K自由視点映像による高臨場感通信、、VRやARを利用したスポーツやゲーム、ライブなどにおけるリアルタイムコミュニケーションなど、5Gの技術によって時間や場所を制限されない社会へと大きく変化していく。そんな5Gを活用した新しいサービスを、一般のお客様にも体験いただけるように「5Gトライアルサイト」も展開しているんです。

―既にさまざまな5Gの実証実験が行われているんですね。「YOYOGI CANDLE 2020」における5Gはどのような役割を果たしたのでしょうか?

小田:イベント会場で披露されたアスリートの演技をNTTのイマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」によって高解像度で映像伝送し、それを300m先のビルに投影する。ここまでを遅延なく投影するだけでもかなりの通信帯域と低遅延が求められますが、「YOYOGI CANDLE 2020」で開催地に選んだ新宿駅周辺は、国内でもトップレベルの人口密集地です。こうしたトラヒックが生じやすい場所にあって、あれだけ大きく高解像度の映像をリアルタイムで投影できたことは、5Gの一つの大きなプルーフオブコンセプトになったと感じています。

大規模屋外イベントが抱える「壁」へのチャレンジ

―実証実験を兼ねた、大きなチャレンジだったわけですね。

長尾:5Gの活用ももちろんですが、「代々木を舞台にプロジェクションマッピングをやろう」という試みそのものが、実はとても大きな挑戦でした。

株式会社カケザン 代表取締役社長 長尾啓樹氏

―それは技術的な問題ではなく、立地的な問題でしょうか?

長尾:特に懸念したのが人口密集地ゆえの安全性です。過去に23区内で実施された大規模なプロジェクションマッピングもありましたが、人が集まりすぎて、安全性の観点から中止になってしまった。

今回の施策に関しても、企画のスタート段階では「中止になった例があるから難しいのでは」という声が上がりましたし、安全性をクリアするため、何をどのように許諾を得ればいいのか、かなり頭を抱えましたね。イベント開催地である渋谷区に説明をし、渋谷区の協力も得ながら、警視庁、国土交通省に申請をしています。さらには代々木の町会の皆さん、駅周辺での実施だったため、JRさんや小田急電鉄さんにもご協力をお願いしています。

企画立案からイベント実施まで、約7か月の期間がありましたが、国土交通省からイベント実施の許可が下りるまで6か月かかりました(苦笑)。その間も、許可が下りるまでは実施できるかさえ不明瞭な状態でありながら、より完成度の高いイベントを目指すために演出にかかわるアイデアや技術を練るという…。

―多くの人たちの協力があってこそ、だったわけですね。すると「街の気運を高める」という点で、協力くださった人たちの反応が気になります。

長尾:「すごいね」というお褒めの声をいただけましたし、中には涙してくださった方もいます。一緒にイベントを作り上げた関係者の一人として、感慨深さを感じていただけたのかもしれません。

屋外広告にしても、屋外における大規模イベントにしても、日本は規制が厳しい。今回のプロジェクトが安全性を保ちながらイベントを遂行できたことで、都心で大規模なプロジェクションマッピングを行うことへの実績が築けたと自負しています。この成功や反響を経て、行政側も少なからず可能性を実感してくれたはずです。プロジェクションマッピングを活用したイベントだけでなく、さまざまな手法で街が彩られていく、最初のきっかけになれたのではないかと。

新たな技術・新たな表現を広げる2020年に

―5Gやイベントを盛り上げるための映像技術、さらに街の協力や規制との葛藤。この全てが「YOYOGI CANDLE 2020」の成功につながったことを実感させられましたが、今回の成功を経て、次なるチャレンジについてもお聞かせください。

長尾:スポーツ観戦の新たな形を示せた「Kirari!」にしても、そのリアルタイム投影を叶えた5Gにしても、今後もどんどん新技術が登場するはずです。しかし先ほども申し上げたとおり、僕らは規制を乗り越えなきゃいけない。

人々の安全を守るための規制を緩和することは、もちろん、容易ではありません。ただ、新技術とアイデアと、それに賛同する人々の協力が得られれば、今回のように規制の範囲内でも新たなチャレンジができ、その成功が規制を緩和し、新たな技術・新たな表現を広げることに繋がるはずです。規制が緩和されれば、もっと新しい、もっと面白いエンターテインメントに挑戦できる。この規制緩和を広げるような試みこそ、2020年に向けて挑むべきチャレンジだと感じています。

小田:2020年は、東京が世界中から注目されます。ドコモは5Gのサービス開始に向けて、5Gだけでなく様々な最新技術を使ったイベントなどを行っていきますので、ぜひ豊かな技術が創造する未来を、多くの人に体験していただきたいと思っています。

(左から)
 株式会社NTTドコモ R&Dイノベーション本部サービスイノベーション部 担当課長 小田哲氏
 株式会社カケザン 代表取締役社長 長尾啓樹氏
 株式会社イメージソース 代表取締役社長 クリエイティブディレクター 小池博史氏